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千葉地方裁判所 昭和52年(わ)358号 判決

事務所の所在地

千葉県千葉市浜野町六二七番地の一

法人の名称

医療法人 長生会

代表者の住居

千葉県千葉市浜野町六二七番地

代表者の氏名

理事長 武田昭信

本籍

千葉県長生郡長南町山内一、六一五番地

法人役員(医師)

武田三代

昭和五年五月二七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官桐生哲雄出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告医療法人長生会を罰金七五〇万円に、被告人武田三代を懲役六月に処する。

被告人武田三代に対し、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告医療法人長生会と被告人武田三代の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告医療法人長生会(以下被告法人と略称する)は、千葉県千葉市浜野町六二七番地の一に主たる事務所を置き、病院の経営等の業務を目的とするもの、被告人武田三代は、被告法人の理事としてその経理全般を統轄しているものであるが、被告人武田三代は、被告法人の業務に関し、法人税を免れようと企て、診療収入の一部を除外するとともに架空経費を計上して簿外預金を設定するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度において、被告法人の実際の所得金額が六〇、三四六、七一六円であったにもかかわらず、昭和四九年五月三一日、同市新宿二丁目六番一号所在の所轄千葉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一六、四七二、四五一円でこれに対する法人税額が五、七九〇、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって被告法人の右事業年度の正規の法人税額二一、九一四、六〇〇円と右申告税額との差額一六、一二三、七〇〇円を免れ

第二  昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度において、被告法人の実際の所得金額が五七、八二九、〇三八円であったにもかかわらず、同五〇年五月三〇日、前記千葉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一〇、九一四、六〇二円でこれに対する法人税額が三、六三三、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって被告法人の右事業年度の正規の法人税額二二、三九九、四〇〇円と右申告税額との差額一八、七六六、〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実に共通して

一、武田昭信の大蔵事務官ならびに検察官に対する各供述調書

一、被告人武田三代の大蔵事務官ならびに検察官に対する各供述調書

一、大蔵事務官作成の各昭和五一年二月二六日付現金有価証券等現在高検査てん末書(一)及び(二)

一、武田昭信ほか二名作成の申述書

一、武田近作成の申述書

一、証人藁谷文彦、同長谷川正視、同幸福啓次、同番重賢嘉の当公判廷における各供述

一、千葉地方法務局登記官作成の登記簿謄本

一、医療法人長生会の定款(写)

一、千葉税務署長作成の証明書

一、山本治作成の証明書二通

一、武田昭信ほか一名作成の証明書二通

一、橋本傳ほか一名作成の証明書二通

一、平瀬健二作成の証明書二通

一、伊藤茂男、鹿山照光、福田稔(三通)各作成の証明書

一、長谷川徹、藁谷文彦各作成の上申書

一、大蔵事務官作成の昭和五一年二月二七日付、同年八月九日付(但し六枚目第一勧銀千葉支店預金明細表の篠田、浅井の各一〇〇万円の部分を除く。)、同年七月二六日付(三通)、同年七月二七日付(三通)、同年七月二九日付(保険掛金の調査書、個人収支および資産負債調査書但し一枚目の資産負債計算科目中、現金・建物・個人費消の部分、個人費消群経費内訳表No.5の一二月二八日及び二九日の分、No.6の一月一八日分の更生費、No.10の六月三〇日分の雑費、No.12の一〇月三一日そごう「ハッチ、キッチンセット」の部分を除く。)、同年八月一〇日付(三通)、同五二年六月二日付、同五一年七月二八日付(二通)、同年八月一九日付各調査書

一、武田近ほか一名作成の申述書

一、宗像四郎ほか一名作成の証明書二通

一、渡邊昭ほか一名作成の申述書

一、今村均ほか一名作成の申述書

一、伊藤恒夫ほか一名作成の証明書

一、検察事務官作成の報告書

一、鴇田よし子の大蔵事務官に対する各供述調書

一、鴇田こと秋葉よし子の検察官に対する供述調書

一、小沢充子の大蔵事務官ならびに検察官(二通)に対する各供述調書

一、石橋雅子、堀江愛子、中里善雄(二通)、高橋啓二(三通)、村山文一(二通)、小林三郎(三通)、内田俊一、服部信彦、鳥海博嗣、武田信孚(二通)、武田美枝、佐藤歌子、佐藤節枝(二通)、佐藤由蔵、児安正臣、花嶋郁夫、有働シヅカ、小島幸子の大蔵事務官に対する各供述調書

一、中里善雄、高橋啓二、滝江愛子、村山文一、小林三郎の検察官に対する各供述調書

一、番重賢嘉作成の

(1)  預金の各期末残高及び受取利息(収益金)調査書(訂正分)

(2)  帰属(預金)に関する調査書

(3)  預金の発生状況とその資金源検討調査書

(4)  報告書

一、杉山進ほか一名作成の現金有価証券等の現在高検査てん末書

一、野村吉三郎ほか一名作成の証明書二通

一、村上邦夫作成の申述書

一、初見清ほか一名作成の証明書ならびに回答書

一、武田近ほか一名作成の証明書

一、押収してある

(1)  預金ご入金控一袋(昭和五二年押第一九六号の一五)

(2)  決算関係書類綴一綴(同号の一九)

(3)  定期預金お利息計算書等一袋(同号の二〇)

(4)  カルテ四袋(同号の二七、二八)

(5)  法人税確定申告書一袋(同号の二九)

(6)  給料支払帳三冊(同号の三〇)

(7)  履歴書三綴(同号の三一ないし三三)

(8)  給料メモ一袋(同号の三四)

(9)  領収書綴二四綴(同号の三五)

(10)  領収証控二冊(同号の三六)

(11)  伝票綴一二綴(同号の三九)

(12)  請求書一冊(同号の四〇)

(13)  請求書等一袋(同号の四一)

(14)  メモ一袋(同号の四二)

(15)  請求書等綴一綴(同号の四三)

(16)  納品書等一綴(同号の四四)

(17)  請求書綴二八綴(同号の四五)

(18)  定期預金線引表二枚(同号の一〇六)

判示第一の事実につき

一、大蔵事務官作成の昭和五一年二月二六日付現金有価証券等現在高検査てん末書

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(証第一五一号とあるもの)

一、押収してある、

(1)  法人税確定申告書三袋(昭和五二年押第一九九号の一、二、三)

(2)  総勘定元帳二綴(同号の五、六)

(3)  現金出納帳一綴(同号の八)

(4)  金銭出納帳一綴(同号の九)

(5)  銀行勘定帳二綴(同号の一〇、一一)

(6)  所得税源泉徴収簿一綴(同号の一三)

(7)  給与所得源泉徴収簿一綴(同号の二三)

(8)  窓口収入明細帳二綴(同号の二四、二五)

一、番重賢嘉作成の仮受金調査書(証第一六一号とあるもの)

一、大蔵事務官作成の昭和五一年六月一八日付領置てん末書

判示第二の事実につき

一、大蔵事務官作成の昭和五一年七月二九日付借入金調査書

一、大蔵事務官作成の昭和五一年四月一二日付領置てん末書

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(証第一五二号とあるもの)

一、押収してある、

(1)  法人税確定申告書一袋(前同号の四)

(2)  総勘定元帳一綴(同号の七)

(3)  銀行勘定出納帳一綴(同号の一二)

(4)  所得税源泉徴収簿一綴(同号の一四)

(5)  無標題ノート一袋(同号の一六)

(6)  五〇年分所得税源泉徴収簿(同号の一七)

(7)  不動産売買契約書等一袋(同号の一八)

(8)  会計伝票一二綴(同号の二一)

(9)  会計伝票一綴(同号の二二)

(10)  窓口収入明細帳一綴(同号の二六)

(11)  領収書綴一二綴(同号の三七)

一、番重賢嘉作成の未納事業税調査書(訂正分)

なお弁護人は、検察官が本件ほ脱額計算について財産計算法を採用して被告医療法人の所得を算出しているのは違法である旨主張するので検討するに、そもそも犯則所得の計算方法につき損益計算法で行うか、財産増減法で行うかについて明文の根拠は存しないところではあるが、損益計算法で行うためにはその年度分の収入・支出が明確である場合でなければならないのであるが、本件の場合入院台帳や「大学ノート」の破棄及び「窓口収入明細帳」の改ざんによって窓口収入の把握・確定が困難であり、証人長谷川正視の証言によって明らかなとおり、診療収入の除外額を押収物等によって確定することが困難であったために財産増減法によってその所得を算定せざるを得ないのであって何ら違法不当なものとは認められない。

次に、右のとおり財産増減法をもって本件法人の所得を計算すると、現金勘定、簿外預金、理事長勘定等いずれも関係証拠によって検察官の主張どおりの金額が認められるのであって、弁護人の主張する額はいずれもその計算の根拠において不明確な点が多く、到底採用しえないところである。

(法令の適用)

被告人武田三代の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から二年間右の刑の執行を猶予することとし、被告医療法人長生会の判示各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項にそれぞれ該当するところ、右は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項によりその罰金の合算額の範囲内で同被告医療法人を罰金七五〇万円に処し、訴訟費用は刑事訴訟法一八二条により被告人武田三代と被告医療法人との連帯負担とすることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 松田光正)

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